笹尾真 重ねる 芥川龍之介「地獄変」より(2016 年〜) H124 × W124 × D40mm *D40mm は 2017/10 時点

誰しも読んだことがある日本文学の名作。笹尾真は、文豪たちの名文を立体の芸術作品にする立体切り文字アーティストだ。
芥川龍之介の代表作の一つ「地獄変」は、「芸術を完成させるためには、いかなる犠牲も厭わない画師の物語」という読み方もできる。
笹尾は、句読点を除いた冒頭の121文字を題材に、パソコンソフトで文字が絶妙に重なるようにレイアウト。それをプリントしたものを型紙に用い、余白部分をカッターナイフで無心に切り取っていく。ふと気がつけば、1日12時間カッターを握っていたことも少なくないという。そうしておおよそ2日かけてすべての余白を切り取ると、型紙を少しだけ拡大させた次の1枚に取り掛かる。
2017年9月26日の時点で、積み重ねた枚数は128枚。それは彫刻のようにも、等高線のようにも、層状岩のようにも見える。最終的に340枚を目標としており、他の作品と同時進行で創作を続けている。

笹尾真  四角錐シリーズ 芥川龍之介「羅生門」より(2014年) 3点の連作。左より H250 × W200 × D200mm、H250 × W200 × D120mm、H250 × W200 × D50mm
四角錐シリーズは、千葉大学工学部工業意匠学科出身の笹尾ならではの作品だ。
「昔から工作は好きだったが、切絵は特に興味があったわけではない」「タイポグラフィーを学んだことはないが、明朝体の情報量が多いところが好き」という。
「羅生門」では冒頭の154文字を題材とし、文章の一部が四角錘となってせり上がり、それが2点目、3点目とだんだんと大きくなり、見るものに向かって鋭く伸びてくる。芥川に言葉のナイフを突きつけられたような感覚に襲われる。
笹尾は「文字が四角錘の頂点の延長線上から見ることによって、はっきりと見えるように計算した」という。「文学と幾何学はテーマの一つ。自分の作風の理屈っぽいところは、そういう出処だからかも」。
芸術とは、ものの見方を変えることだという言葉がある。

笹尾の作品を見ていると、文字が文字ではなくなり、言葉が言葉ではなくなり、文章が文章ではなくなるような、そんな目眩がしてくるはずだ。

立体切り文字アーティスト

1964年生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒。映像制作会社を退社とともに、独自の表現の模索を始める。
2011年、「第21回紙わざ大賞」にて「竹尾賞」を受賞するとともに、一般の入場者からも「あなたが選ぶ紙わざ大賞1位」に選出。これを機に芥川龍之介や夏目漱石、中原中也や太宰治などの文学作品の冒頭の一節を切り取っては幾層にも積み重ねていく、立体写経のような作風が確立した。笹尾は「紙わざ大賞」に第20回から26回まで連続入選している。(「紙わざ大賞」とは特種東海製紙㈱主催のコンペで、紙を使用していればどのような作品でも応募可能。過去に神の手アーティストのHIROKO氏、中山ゆかり氏も受賞している)
また、笹尾は2013年にオランダで開催された「Mathematical Art Exhibition」にも出展し、アルファベットの立体切り文字で好評を博している。また、大磯町の旧島崎藤村邸や鴫立庵には、笹尾の立体切り文字作品が常設展示されている。

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