「cut of pink」(2017 年) H530 × W645mm 和紙(切絵)+アクリル絵画

今までの切絵は、基本的にモノクロームの世界だった。
白い紙という平面上に切り抜かれた黒い紙の像を、あるいはその逆で、黒い紙の平面上に切り抜かれた白い紙の像を配する。

だが、中村敦臣のほとんどの作品は実にカラフルだ。しかも、平面でなく立体だ。
敦臣は、切絵の技法を駆使して、和紙に0.5㎜にも満たないカットを丁寧に施すが、その背景に配するのはピンク色の絵画であったり、あるいはカットされた切絵そのものにアクリルやメッキ調合成樹脂で着色したりする。
「果たして、これを切絵と呼んでいいものか?」敦臣独自の手法に、意見が分かれることもあるだろう。

また、敦臣が描くモチーフやテーマも異質だ。従来の切絵は、人物や静物、動植物や建築物、文様など題材は様々あれど、ベースには日本的な美や和があった。そして多くはテーマを持たず、技巧を競ってきたように思える。
一方、敦臣のモチーフはハイブランドのバッグであったり、例えばテーマとして<現代女性の理不尽な内面>を掲げている。

敦臣は従来の切絵に対して「細かな作業は時間をかければ誰にでもできる」と言い切る。「大切なのは作品を通して<何>を伝えるか」だと。

「今現在の興味や関心を自分の作品に正直に反映したい」と敦臣はいう。「たとえ今日まで培った自身の作風の一貫性を犠牲にしてでも」と。

「KAWAIIは正義か?」
近年、海外で紹介される日本文化の一つに「カワイイ」がある。作品「cut of pink」では、糸に迫る細さで極限まで用心深く切り抜かれた一本につながる切絵によって浮かび上がる龍の顔がある。しかし、敦臣曰く「この絵の主人公は龍ではなくピンクという色」なのだそうだ。今の時代には「ピンクという色(=カワイイということか?)が、あらゆる出来事を赦し、浄化してしまうような流れや空気感がある」と。
龍の顎からは某KAWAII系の代表的キャラクターを示す赤いリボンや、猫の象徴的記号である3本の髭がはみ出ている。その眼は前方を蛇のように冷たく凝視しており、次の獲物を狙っているかのようにも見える。一方で、その瞳には極めてMANGAチックな虹彩が付け加えられている。また角の一つはリボンで飾られ、注意深く見ると、そのなかにハートマークを見出すことができる。
「KAWAIIは正義か?」その答えは、鑑賞した者の心の奥にある。
「a type of Bag walls can wear / 壁に着けるタイプのバッグ」 (2016年) 

「このシリーズはシャネルやプラダ等ハイブランドをモチーフにした作品です。和紙を使い、本物以上に制作時間(1作品に約1ヵ月/1日12時間)を有し、かつ使用することはできないという、ある意味で究極のエコ「壁に着けるタイプのファッションアイテム」として自己表現、自己演出の再構築をテーマとした作品です」(敦臣談)

現代切絵アーティスト

1974年、山口県生まれ。会社員だった29歳の時に独学で切絵を始め、32歳で作家デビューした。
和紙を用い、0.5㎜に満たないカットを施した繊細な切絵に、アクリル絵画やコラージュ技法、あるいは金属といった異素材を融合させる独特の作風と、社会問題や環境問題、サイエンスから哲学まで、今という時代と対峙するテーマ性は、他にはない敦臣独自のもの。
世界各国から300名を越える応募があった国際切絵コンクール「トリエンナーレ」で唯一、二期連続で優秀賞を受賞。同時に、2014年フランス「ジャパンエキスポ」招待や、2017年渋谷ヒカリエ「TOKYO INTERNATIONAL ART FAIR」参加など、切絵作家としてはもとより、その手法の新しさや、掲げるテーマの時代感覚から、現代美術やポップカルチャーなど多方面から注目を集めている。また創作活動以外でも、小学校の切絵クラブ活動講師や、各学校で行われた異文化交流ワークショップ(2015年世界スカウトジャンボリー)の参画など、切絵を通して社会文化活動に積極的に取り組んでいる。

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