安部朱美 「或る夏の日」(2008年)
転機は誰にでも訪れる。しかし、多くの人は気付かずに見逃してしまう。また、転機を迎えているとわかってはいても、歩んだことのない道に一歩踏み出すにはかなり勇気がいる。自分が10代なら少々の無茶もできる。けれど、30代で家庭を持っていたとしたら、どうだろうか?
安部さんは「子供の頃は人形に興味はなかった。人形で遊んだこともなかった」と振り返る。さらには「工芸展といったものに足を運んだ経験も一切なかった」と。
そんな安部さんが紙粘土人形に出会ったのは30歳を過ぎてから。3人の子供に読み聞かせる本を探しに図書館通いをしていた頃、ふと手にとった「紙粘土人形の本」がきっかけだったと言う。「その瞬間、不思議と衝撃が走ったのですね。作りたいと思いました」。「簡単な人形だったのですが、それを一体作り終えました時に、ああ、これから私は人形を作っていくのだと心が定まったことを鮮明に覚えています」。
その日から粘土人形作りに打ち込んだという。技法はもちろん材料すらわからないままの、まったくの手探り状態。子育てがピークの時で、子供たちが寝静まってから「夜中の2時、3時まで夢中で作っていた」と笑う。もちろんそこには夫や子供たちの理解もあったはずだ。
「幸せですよね、こんなに没頭できるものが見つかったということは。そしてそれに協力してくれる人がいることも本当にありがたいと思っています」
安部朱美 「かあちゃんよんで」(2007年)
創作人形作家
1950 鳥取県西伯町(現・南部町)で生まれる
1981 模索しながら独自の技法で創作粘土人形を始める
1994 「新協美術全国展」新協彫刻賞
1995~1996 「日本伝統工芸中国支部展」入選
1998 「用瀬全国創作和人形コンクール」流しびな大賞
1999 西伯町総合福祉センターにブロンズ像「絆-明日への詩」設置
1999~2007 「新匠工芸展」入選、米子市美術館で個展
2002 第17回国民文化祭「全国和人形コンクール」鳥取県実行委員会会長賞
2007 「宝鏡寺門跡人形展50周年記念公募展」にて作品『かあちゃんよんで』が大賞、「米子市文化奨励賞」受賞
2010 作品「かあちゃんよんで」が国民読書年ポスターに起用される
全国巡回展「安部朱実創作人形展 きずな 昭和の家族、伝えるこころ」開始
2015 臨済宗大本山円覚寺に「坐禅」人形8体奉納、北鎌倉古民家ミュージアムで常設展示「昭和の家族~きずな」